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#危険サイン

10 なぜ二人の思い出は色褪せたのか?「悪い思い出」が示す危険なサイン

10 なぜ二人の思い出は色褪せたのか?「悪い思い出」が示す危険なサイン

皆さんは、パートナーとの関係がうまくいっているかどうか、何で判断しますか?会話の量、喧嘩の頻度、それともスキンシップの回数でしょうか。もちろん、それらも大切な指標です。しかし、シアトルの「ラブ・ラボ」で40年以上にわたり夫婦関係を研究してきたジョン・M・ゴットマン博士は、非常に興味深い、そして見過ごされがちな危険なサインを指摘しています。

それは、**「二人の過去の思い出が、どのように語られるか」**です。

一見、何でもないことに思えるかもしれません。しかし、現在の関係性がネガティブな状態に陥ると、楽しかったはずの過去の思い出までが、まるで色褪せた写真のように否定的に書き換えられてしまうのです。今回は、この「悪い思い出」がなぜ夫婦関係における危険なサインとなるのか、ゴットマン博士の研究をもとに探っていきましょう。

思い出は「再構成」される - 脳の仕組みと夫婦関係

まず理解しておきたいのは、私たちの記憶はビデオ録画のように正確に保存されているわけではない、という点です。むしろ、思い出すたびに、その時の感情や考え方によって再編集・再構成される、とても柔軟なものなのです。

この脳の仕組みが、夫婦関係に大きな影響を与えます。関係が良好なときは、過去の多少のトラブルも「あれがあったから今があるね」と笑い話になります。しかし、関係が悪化し、相手への不満や不信感が募ると、脳は「この関係がうまくいっていない証拠」を探し始めます。その結果、楽しかったはずの思い出が、否定的な証拠として「再構成」されてしまうのです。

ゴットマン博士が言うように、**「関係がネガティビティに飲み込まれると、二人の過去そのものが危険にさらされる」**のです。

幸福なカップルと不幸なカップル、思い出の語り方の決定的違い

ゴットマン博士は研究の中で、幸福な関係を築いているカップルと、そうでないカップルとでは、過去の語り方に明確な違いがあることを発見しました。

〇 幸福なカップルの語り

幸福なカップルは、出会った頃や結婚当初の思い出を、肯定的な光を当てて語ります。

「大変なこともあったけど、二人で力を合わせて乗り越えてきたよね」

「彼がプロポーズしてくれた時の、あのレストランの雰囲気と彼の緊張した顔は今でも鮮明に覚えてるわ。本当に嬉しかった。」

彼らは、苦労した経験さえも二人の絆を強めた物語として捉え、お互いへの称賛や愛情を自然に表現します。彼らの物語は、**「私たちは良いチームだ」**という感覚に満ちています。

× 不幸なカップルの語り方

一方、関係が悪化しているカップルの過去の物語は、ネガティブな出来事に満ちています。

ある夫婦の例を見てみましょう。夫のタカシさんと妻のミカさんは、最近喧嘩が絶えません。彼らに出会った頃の話を聞くと、ミカさんはこう語り始めました。

「彼、最初のデートに30分も遅刻してきたんですよ。今思えば、あの頃から時間にルーズな人だったんですよね。」

さらに、結婚式の思い出を尋ねると、タカシさんはこう返します。

「ああ、最悪だったよ。君、俺の友人たちとばかり話してて、俺のことなんてそっちのけだったじゃないか。」

彼らの会話からは、楽しかったはずの思い出をわざわざ否定的に解釈し、相手を非難する意図が見え隠れします。思い出は、二人の絆を確かめるものではなく、現在の不満を正当化するための「証拠物件」と化してしまっているのです。

なぜ「思い出の書き換え」が危険なサインなのか

過去の思い出がネガティブに書き換えられることは、単なる記憶違いや意見の相違以上の、深刻な問題をはらんでいます。それは、夫婦関係の基盤である「肯定的な視点」が失われていることを意味するからです。

ゴットマン博士によれば、幸福な結婚生活を送るカップルは、「ポジティブ感情の貯金」が豊かです。この貯金があるおかげで、相手の些細な失敗も大目に見ることができます。

〇(幸福なカップル):「夫が記念日のプレゼントを忘れた」→「最近、仕事が本当に忙しくて大変だったものね。彼の気持ちはいつも感じてるから大丈夫。」(相手の状況を思いやり、人格と行動を切り離して考える)

しかし、関係が悪化し、この「貯金」が底をつくと、あらゆる出来事がネガティブに解釈されます。

×(不幸なカップル):「夫が記念日のプレゼントを忘れた」→「やっぱり彼は自己中心的で、私のことなんてどうでもいいのよ。いつもそうだわ。」(一つの行動から、相手の全人格を否定する)

このように、現在のネガティブな感情がフィルターとなり、過去・現在・未来のすべてを覆い尽くしてしまうのです。過去の美しい思い出さえも否定的に語られるようになった時、その関係は愛情や尊敬を育む力を失い、崩壊へと向かう危険な状態にあると言えるでしょう。

もし、あなたとパートナーが過去を振り返る時、そこに温かい感情や笑いがなく、ため息や非難ばかりが口をつくのであれば、それは関係からのSOSサインかもしれません。

しかし、絶望する必要はありません。これはむしろ、関係修復のための「介入が必要だ」という重要な気づきの機会です。ゴットマン博士の提唱する他の原則、例えば**「愛情マップを広げる(相手の世界に関心を持つ)」「優しさと称賛を育む」**といったことに意識的に取り組むことで、ネガティブなフィルターを取り払い、再び二人の物語に温かい光を取り戻すことは可能なのです。

あなたとパートナーの「物語」は今、どんな風に語られていますか?一度、ゆっくりと振り返ってみてはいかがでしょうか。


まとめ

  • 過去の思い出の語り方は、夫婦関係の健康度を示す重要なサイン
  • 幸福なカップルは過去を肯定的に語り、不幸なカップルは否定的に再解釈する
  • 「記憶の再構成」と「確証バイアス」が過去の書き換えを引き起こす
  • 思い出がネガティブになったら、関係修復のサインとして受け止めよう
  • 「愛情マップを広げる」「優しさと称賛を育む」ことで関係は修復可能

参考文献

“The Seven Principles for Making Marriage Work”, John M. Gottman, Ph.D., 1999

更新日: 2026年1月10日

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