虫眼鏡越しに文字を見る様子

22 実践!行き詰まりを解消する「夢探偵」になるための対話法

22 実践!行き詰まりを解消する「夢探偵」になるための対話法

「またこの話?」「何度言ったらわかるの?」――。夫婦間で、まるで出口のないトンネルのように同じ議論を繰り返してはいませんか?

それは、心理学者のジョン・ゴットマン博士が**「行き詰まり(Gridlock)」**と呼ぶ危険な状態かもしれません。行き詰まりとは、夫婦が抱える「永続的な問題(全体の69%を占める解決しない問題)」について、妥協点を見いだせずに膠着状態に陥ってしまうことです。ユーモアや思いやりは消え去り、お互いの立場はますます硬化し、心は離れていきます。

しかし、この深刻な行き詰まりは、対話の方法を変えることで乗り越えることができます。その鍵は、対立の裏に隠されたお互いの**「夢」を理解する「夢探偵」**になることです。

なぜ「行き詰まり」は起こるのか?

ゴットマン博士の研究によれば、行き詰まりが起きる根本的な原因は、表面的な意見の対立ではありません。その背後には、お互いの人生にとって非常に大切な「夢」が、相手によって脅かされているという感覚が隠されています。

ここでいう「夢」とは、単なる願望ではありません。それは、その人のアイデンティティの一部であり、人生に意味や目的を与えてくれる希望、願望、価値観そのものです。

例えば、本書に登場するある夫婦は、「家の片付け」を巡って常に対立していました。

  • 夫ブランドンの立場: 「妻は綺麗好きすぎて息が詰まる。自分の家なのにくつろげない。」
  • 妻アシュリーの立場: 「夫が散らかし放題で、私ばかりが片付けている。無神経だ。」

一見すると、これは単なる生活習慣の違いに見えます。しかし、彼らの「夢」を探ると、全く違う景色が見えてきます。

  • ブランドンの夢: 彼は厳しい家庭で育ち、常に見た目を気にする母親から叱責されていました。彼にとって散らかった家は**「批判からの自由と安心」**の象徴でした。
  • アシュリーの夢: 彼女は混乱した家庭環境で育ち、幼い頃から弟妹の面倒を見る責任を負わされていました。彼女にとって整頓された家は**「予測可能で平和な暮らしと、家族への責任」**の象-徴だったのです。

このように、行き詰まった対立の多くは、表面的な「何をするか」ではなく、**「どんな人間でありたいか」**という、お互いの深い夢の対立なのです。この夢が理解されず、尊重されないと感じるからこそ、人は一歩も譲れなくなってしまうのです。

行き詰まりを乗り越えるための対話法:「夢探偵」になる3ステップ

問題解決を目指す前に、まずはお互いの夢を理解し、尊重するための対話が必要です。目的は**「相手を説得すること」ではなく、「相手を深く知ること」**です。

ステップ1:お互いの「夢」を探求する

一方が「話し手」、もう一方が「聞き手」となり、時間を区切って役割を交代します。ここでの聞き手の役割が、まさに「夢探偵」です。

  • 聞き手の心構え(夢探偵の仕事)

    聞き手は、自分の意見や反論をぐっとこらえ、ただ相手の夢を理解することに集中します。相手の夢を個人的な攻撃と捉えず、好奇心を持って耳を傾けることが重要です。

    × 悪い聞き方

    「そんな夢、非現実的だよ。」「結局、君はわがままなんだ。」

    (→相手の夢を評価したり、批判したりすると、相手は心を閉ざしてしまいます。)

    〇 良い聞き方(夢探偵の質問)

    ゴットマン博士は、夢を引き出すための魔法の質問をいくつか提示しています。

    • 「その考えの背景にある価値観や信じていることを教えてくれる?」
    • 「あなたにとって、その夢はどんな意味があるの?」
    • 「もし魔法の杖があったら、本当はどうなってほしい?」
    • 「その夢のルーツは、あなたの子ども時代や過去の経験と関係がある?」

    このように、判断を挟まず、ただ相手の内なる世界を探求する姿勢が、安全な対話の場を作り出します。

ステップ2:感情がたかぶったら「休憩」する

夢について語ることは、時に強い感情を伴います。もし会話中に心拍数が上がったり、怒りや悲しみで圧倒されそうになったりしたら(洪水状態)、それは**「休憩」**のサインです。

ゴットマン博士は、最低でも20分間、その問題から完全に離れることを推奨しています。その間は、お互いに心を落ち着かせる活動(音楽を聴く、散歩をする、雑誌を読むなど)に没頭しましょう。重要なのは、休憩中に相手への反論を考えないことです。

ステップ3:「一時的な妥協」を見つける

お互いの夢を理解し、尊重できるようになったら、いよいよ妥協点を探ります。しかし、ここでの目標は完全な問題解決ではありません。永続的な問題は、おそらく完全にはなくならないからです。目標は、お互いの夢を尊重しつつ、双方が平和に共存できる「一時的な妥協点」を見つけることです。

そのために有効なのが、**「2つの円」**を使った方法です。

  1. 内側の円(譲れない部分): この問題において、自分の核となる価値観や基本的なニーズに反するため、どうしても譲れないことを書き出します。この円は、できるだけ小さく保つことが重要です。
  2. 外側の円(柔軟になれる部分): 譲れない部分以外で、相手のために譲歩したり、柔軟に対応したりできることを書き出します。

この2つの円を夫婦で見せ合うことで、どこに妥協の余地があるのかが明確になります。お互いの「譲れない部分」を尊重しながら、「柔軟になれる部分」で歩み寄ることで、具体的で実行可能なプランを立てることができるのです。

この対話を通じて、夫婦は「敵」ではなく、お互いの夢を応援し合う「チーム」になることができます。行き詰まりを解消する道は、相手を打ち負かすことではなく、お互いの最も深い部分にある願いを尊重し、共に生きていく方法を見つけ出すプロセスの中にあるのです。

更新日: 2026年1月10日

関連記事