4 その常識は間違い?巷にあふれる「結婚の神話」
4 その常識は間違い?巷にあふれる「結婚の神話」
夫婦関係に悩んだとき、多くの人がテレビや雑誌、インターネットで「専門家」のアドバイスを探します。そこには「もっとコミュニケーションを取りましょう」「お互いを理解するためにじっくり話し合って」といった言葉があふれています。しかし、もしこれらの「常識」が、科学的根拠の薄い**「神話」**だとしたらどうでしょうか?
心理学者ジョン・ゴットマン博士は、40年以上にわたる科学的調査を通じて、巷で信じられている結婚の常識の多くが、必ずしも正しくないことを明らかにしました。この記事では、博士の研究に基づき、私たちを惑わせる「結婚の神話」を解き明かしていきます。
最大の神話:「コミュニケーション能力」が結婚のすべてを決めるという嘘
夫婦関係の問題で最もよく指摘されるのが「コミュニケーション不足」です。多くのカウンセラーは、「アクティブリスニング(積極的傾聴)」というテクニックを教えます。これは、相手の話を評価せずに聞き、その感情を要約して返すことで、共感的な環境を作る手法です。
💡 [心理学] このアクティブリスニングは、もともと心理学者カール・ロジャーズが個人カウンセリングのために開発した「来談者中心療法」の技法です。患者が安心して自己探求できる環境を作る上で非常に有効ですが、ゴットマン博士は、これが夫婦間の対立解決には機能しにくいと指摘します。
なぜなら、夫から不満をぶつけられている妻にとって、夫はセラピーのクライアントではなく、自分を非難している張本人だからです。聖人のような忍耐力でもない限り、冷静に相手の言い分を繰り返すのは至難の業です。
× 神話に基づいた対応: 夫に「君は全然話を聞いてくれない!」と責められた妻が、「あなたは私が話を聞いていないと感じて、悲しいのね」と冷静に繰り返そうとする。しかし内心では「そんなことない!」と怒りがこみ上げ、状況は悪化する。
ゴットマン博士の研究では、幸福な結婚生活を送っている夫婦が、必ずしもこの「アクティブリスニング」の達人ではないことが分かっています。時には激しく言い合い、お互いの主張をぶつけ合うこともあります。しかし、彼らの関係が壊れないのは、表面的なコミュニケーション・テクニックではなく、もっと深いレベルでのつながりがあるからです。つまり、「どう話すか」という技術よりも、「関係の根底に何があるか」が重要なのです。
科学が暴く!夫婦関係をダメにする5つの誤解
コミュニケーション神話のほかにも、私たちを間違った方向へ導く可能性のある神話はたくさんあります。
1. 性格の不一致や神経症的な問題が結婚をダメにする?
離婚理由の定番として挙げられる「性格の不一致」。しかし、ゴットマン博士の研究では、ごく普通の神経症的な性格(心配性、頑固など)と結婚の破綻との間には、ごくわずかな関連性しかないことがわかっています。
問題は性格そのものではなく、お互いの「弱点」や「地雷(enduring vulnerabilities)」をどう扱うかにあります。
〇 良い例: 権威に反発しやすい性格の夫に対し、妻が彼を対等なパートナーとして扱い、支配しようとしない。この場合、夫の「弱点」は問題にならず、関係は安定する。
× 悪い例: 見捨てられることに強い不安を感じる妻に対し、夫が平気で他の女性に気のあるそぶりを見せる。これは妻の「地雷」を繰り返し踏む行為であり、関係を破滅に導く。
2. 不倫が離婚の根本原因?
衝撃的な不倫の発覚が離婚の引き金になることはありますが、ゴットマン博士は、多くの場合、不倫は**原因ではなく「結果」**だと指摘します。
💡 [心理学] 離婚調停プロジェクトの研究によると、離婚した男女の80%が、離婚理由は「徐々に心が離れていった」「愛されている、感謝されていると感じられなくなった」からだと答えています。不倫が原因だと答えたのは、わずか20〜27%でした。多くの場合、夫婦の間にできた心の溝や孤独感が、パートナー以外に親密さを求める行動へとつながるのです。
3. 対立を避けるのはNG?
「何でも話し合うべきだ」という風潮がありますが、対立への対処法はカップルによって様々です。ゴットマン博士の研究では、お互いに距離を置いて対立を避けることで、幸せな関係を維持している夫婦もいることが分かっています。重要なのは、そのスタイルが二人にとって機能しているかどうかです。一方が話し合いたいのに、もう一方が常に避けるのであれば問題ですが、双方がそのスタイルで快適なら、無理に変える必要はないのです。
4. 共通の趣味があれば安泰?
「私たち、趣味が合うんです」というのは、一見すると素晴らしいことのように思えます。しかし、重要なのは趣味そのものではなく、**「その活動を通じて、お互いにどう関わるか」**です。
一緒にテニスをしながら、相手のミスを罵倒したり、馬鹿にしたりしていては、共通の趣味が逆に関係を悪化させる原因になります。どんな活動であれ、根底にあるべきは相手への敬意と楽しさを分かち合う気持ちです。
5. 男と女は違う星の生き物?
「男は火星から、女は金星からやってきた」というような男女の違いを強調する言説は人気ですが、ゴットマン博士はこれも神話だと言います。もちろん性差は存在し、対立の一因にはなりますが、それが問題の根本原因ではありません。
博士の研究が明らかにした最も重要な事実は、妻が結婚生活の満足度(セックス、ロマンス、情熱)を決定づける要因の70%は「夫婦の友情の質」であり、夫にとっても、その決定要因の70%は、同じく「夫婦の友情の質」である、ということです。
結局のところ、私たちは同じ地球の住人であり、性別を超えて深い友情を求めているのです。
これらの神話に振り回されず、科学的な知見に基づいて関係を見直すことで、結婚生活はよりシンプルで、豊かなものになるはずです。
John M. Gottman, Ph.D., and Nan Silver. The Seven Principles for Making Marriage Work. Harmony Books, 2015, pp. 17-22.
更新日: 2026年1月10日